Topics

創業メンバー座談会

ゲームとf4samuraiのこれから

会社設立10年を迎えて、創業メンバーの3名が座談会を行いました。
テーマは、常日頃f4samuraiと関わって下さっている方、ともに働く仲間たち、まだ見ぬ未来のメンバーに伝えたいこと、また経営者としてあらためて自分たち自身に課すべきことについて。
いつもの空気感そのままに、自然体ながらも熱量高く、2時間かけてじっくりと語っています。

  • 代表取締役(CEO)金 哲碩
  • 取締役(COO)田口 堅士
  • 最高技術責任者(CTO)松野 洋希

1)3人それぞれの違いこそが強み

創立10周年の節目ということで、改めて3人のお話の場を設けました。10年やってこれた秘訣ってなんですか?

田口:
秘訣はこれです!って差し出せるものが特にあるわけじゃないんだけど。3人の得意分野が異なっていたというのはいいことなんだと思う。
松野はCTOの名の通り技術について統括していて、社長の金は外に出ていくのが得意だからクライアントやパートナーとのやり取りを引き受ける。そして僕は社内の組織やメンバーを見たり、設計を見たり。そんな感じでそれぞれの得意なことに合わせて自然と分担してきた。ここぞというとき以外は、互いの領分に踏み込まなかったから、それがよかったんじゃないかな。
金:
3人のキャラクターの違いもあるよね。ガヤ担当とかね、乾杯の松野とかね(笑)
松野:
あるかな(笑)
田口:
あるよね(笑)
あと、3人とも経営者らしい壮大な目標があるタイプではないんですよね。それがかえっていいのかもしれない。「やりたいことをやって楽しくできるのがいいんだよね」って、そこの目線が合ってるから。「楽しいことをやっていたい。自分たちと社員が幸せであることこそが大前提だ」っていう思いが根底にある。もちろん、そうならないとき、つらいとき、人や立場によっては幸せを感じられないときももちろんあるだろうけど。社員が幸せに働けなくなるような事業判断だったらすべきじゃないよねっていうのは、3人で話していると出てきますね。これで例えば3人のうち1人が「俺、すっごい儲けたいんだよ!」っていいだしたら、また違ってくるんだろうな。
松野:
ははは(笑)。3っていう数がいいのかも。3人だと、意見が分かれてもとりなす役がいる。一人が「こういうことやりたい」っていいだして、もう一人が応援して、もう一人が止めるとかね。

2)持てるリソースの99%は、ものをつくるために

田口:
よく他の会社さんから「再来期の計画はどうなっていますか?」とか「5カ年計画を出してください」とかいわれるんですけど、ゲームのスケジュールは6ヶ月、1年と、先々までイベントとか決めてるんですけど、会社としての方針とか計画はあまりなくて(苦笑)
常に考えながら、そのときそのときの状況、情報、気分でベストな道はどれなのかを判断しています。ずっとおんなじことやっててもつまんないから会社として変わりたい。そういう気持ちはあるけれど、どう変わるか先々まで計画してその通りに動くというよりは、その都度考えて探りながら変わっていくということになるんじゃないかな。
松野:
計画がないといっても、見えているゴールはたぶん一緒なんですよ。空いている穴を埋めにいくのか、攻めていくのか。どちらにしても状況を見て動き方を変える。これまで10年培ってきたやり方や成果物にこだわる気はない。計画立てて未来をガチッと決めて動くと、外れちゃったときにかえって動きづらいんじゃないかな。これからも自分たちで固定観念を設定してしまうことがないように働いていきたいよね。
金:
確たる計画を持たないのは、事業柄も大きいと思うんです。もし、なりわいとするサービスが1つに限定されていたらきっと違う。例えば飲食店レビューサイトの拡大が使命、という会社だったなら、フェイズによって目標値もKPIも定まってくるから計画も大きな意味を持つと思うんです。
でもゲームって、今つくっているタイトルの「その次」くらいまでしか僕らには見えない。創業当初なんて予算1000万円で1タイトル制作、2ヶ月ごとに1タイトルというハイペースで出していた、そんな時代だったんです。計画を立てても1ヶ月で話が変わってしまう。じゃあ四の五のいってる暇があったらものつくっていようぜって。
田口:
そう。つい最近まで、うちの会社のリソースのうち、99%はものをつくることに使われてきたと思う。
松野:
ただ、計画を立ててないっていってもそれは言語化されたロードマップの中に落とし込まれてないだけで、各自があたためているアイデアや構想は常にあるよね。それを機を見ては各々がエイッと出してくる。
金:
あときっと、精緻な計画に重きを置いてこなかったのは体制や資金調達の面でわりと独立性を保ててきたから、という理由もあるよね。
僕らは資金を社外から調達したのも、起業時を除くとセガさんからのタイミング1度だけだった。セガさんは株式上場されていますから、当然、道筋立てて対外的に計画を公表しなくてはいけない。だからこちらもそのときは合わせて計画を用意しました。けれどそのとき以外は、例えば「2013年なら制作費3000万円で売上1億を目指せたらいいね」とか「2015年なら2億狙っていこう」とかね。本当にざっくり、じゃあ何年で何人体制で何本タイトルで、って僕らで握っていれば十分だったから、精緻な計画は不要だったんです。
それに、社外から資金調達しての制作という絶対に当てなきゃいけない勝負を乗り越えたあとは、やっぱりちょっと余裕もできて、「細かい計画立てることに時間取られるくらいなら、その分のパワーでものつくっていこうぜ」って雰囲気になった。

3)机上の計画がなくても推進していける

田口:
そういえば僕、起業した当初は「ベンチャーたるものスケジュールじゃない。気合いだ!」なんていってたけど(笑)、その前のSIerで働いてたときは計画こそ仕事の中の最も重要な要素の一つだったんだよね。
金:
ははは(笑)その前職の経験っていうのはやっぱり大きくてさ、土台にしっかりした開発フローの経験があるから、逆に計画を引かなくてもだいたい把握できるっていうのはあったんじゃないの。
システムづくりとゲームづくりって似てるんですよ。SIerのシステムづくりって開発予算の半分を実はテストにあててるんです。でも起業してからはカネもヒトも限られてるから、テストは効率よく工夫してやって、テスト仕様なんかは書かないでひたすらゲームをやりこんで潰していくとかね。とにかく最速で動くことを考えてた。
田口:
最短でゴールを獲ろうよっていう意識がそうさせたんだと思います。そういえばうちの会社にはいわゆる「社員から役員への報告」っていう改まったものもなくて。
松野:
だって現場にいれば全部なんとなく見えてくるからね。ただ、これまではそれで回ってきたけど、だんだん組織が大きくなってくるとそうもいかない。
金:
そうだよね。ここにきて弊害も出てきた(笑)
この問題を解決したくて改善に積極的に取り組んでいるよね。

4)社員のフォローは僕らの大切な仕事

金:
最初の数年間はずっと、新規タイトルは一球入魂でつくってきたんですよ。既存タイトルは何人かに守ってもらって、僕らも現場に入って新規を全メンバー総力挙げてつくる。そういうやり方をしていると、社内のどのメンバーとも一度は一緒にものをつくったことがあるよね、っていう状態になる。
一緒に現場やってるとなんとなくわかるんですよ。スキルと人となりはもちろんのことだけど、喋らなくても、今どんなテンションなのかなとか、ああ乗ってるなとか、ちょっとダウンしてるなとか、自然と見えてくる。でも会社が軌道に乗って、タイトルが分岐して、複数作品を並行して制作するフェイズに入ってからは、僕らが現場で指揮を執ったり手を動かしたりする機会も当然ながら減りました。すると、どうしてもメンバーのテンションや顔つきについて見えない部分が出てきてしまう。そこは新たな課題です。

テンションの落ちているメンバーに対してはどう接するのでしょうか?

金:
何よりも話を聞く、ということですね。
そりゃ、いつもいつも外からやる気スイッチを押してあげないと走り出せないというんじゃ困るけれど、その人が働きやすい環境をつくるためにフォローするのは僕らの役割なので。
田口:
今、僕の仕事の3分の1はそれなんじゃないかな。様子が気になったら、本人と一対一で話を聞いて。
やっぱり150人くらいになると見えにくい部分も出てきちゃって、そこのケアは僕の仕事の中でとても重要な部分だと考えています。
金:
多分、うちはそういうケアは結構やってるほうだよね。様子が気になったら直接聞くというのもあるし、それだけじゃなくて、社内ではプロジェクトごとの縦の組織、職種ごとの横の組織、縦横の2方向の組織があるんですね。それでコンディションの悪い人がいたら、縦でも横でも誰か近くの話しやすい人にバトンタッチして話を聞いてもらう、というふうにしていて、そうすることで意外と情報量が担保できているんじゃないかな。

5)ソーシャルゲームの黎明期、拡大期を経て見えている景色

皆さんは、子どもの頃からゲームが好きだったんですか?

松野:
僕らはそこまでゲームをやっていた子どもではなかったんですよ。でも、起業当初のソーシャルゲームというのはWeb系の、いわゆるガラケーでやるゲームだったんです。ゲームと名はついているもののコミュニケーションが主目的で、いわゆるコンシューマーゲーム(家庭用ゲーム機でのプレイを前提としたゲーム)とは別物でした。もし本気でゴリゴリのゲームをつくりたいなら当時のソーシャルゲームにはいかなかっただろうと思うんですよね。
その頃はまだゲーム会社さんはそんなにソーシャルゲームをつくっていなかった。それが携帯のスペックが上がっていき、スマートフォンになり、表現力が上がって動きの制約も少なくなり、市場規模も大きくなって……という中でゲーム会社さんも参入したんです。
田口:
僕らが事業を始めたときって、ちょうどミクシィのソーシャルゲームが出たタイミングくらいだった(2009年8月にmixiアプリがスタート。ソーシャルゲーム流行の大きなきっかけとなった)。1タイトル約200万円、300万円といった制作費で開発できて、それがいきなり100万エンドユーザーにリーチできるんだなんていわれていた。
当時は「バイラル」(クチコミの連鎖のこと。当時はネット上でバズることをそう呼んだ)っていうのがキーワードで。今だと当然のことかもしれないけど「人が人を呼んで、ものすごいスピードで流行するんだよ」「そんな『バイラル』っていう魔法があるんだよ」みたいなことをよく周囲から聞いたけれど、僕たち結局その魔法は使えなかったね。
松野:
ハハハハハ!バイラル、なかったねー(笑)
田口:
で、立ち上げて最初の2年くらいはゲーム以外もやりたいよねっていってたよね。
松野:
そう。それで最近また、他にも何かないかなっていう話はしてる。というのは、ソーシャルゲームの規模が大きくなってきて開発の難易度がどんどん上がってきてしまったから。1タイトルあたりの予算も莫大だし、制作期間も長くかかるようになった。開発に3年かけるとして、でも3年先のマーケットがどうなっているのかってそうそう読めない。
田口: 今ゲームにおいても中国がどんどん強くなってきていて、1本つくるのに20億、30億円かけるようになってきてるんです。でも日本が同じだけ予算を費やすのは正直厳しい。
金:
ソーシャルゲームもハイエンドの戦いになってきて、武器は増えたけどーーつまり表現できることや実現できることっていうのは10年前に比べて桁違いに豊かにはなったんだけどーーじゃあそこに全精力を賭けて突っ込んでいくのがf4samuraiとして正解なのかっていったら、葛藤はありますね。

6)修学旅行の夜が蘇る、大人になってからのゲームの時間

金:
僕は子ども時代はそれほどゲームをやっていたわけじゃないけれど、大人になって自分たちのつくったゲームをプレイすることを通して、いろんな得がたい出会いをたくさんしてきたんです。例えばこのコーポレートサイトの制作をお願いしたデザイン会社の社長さんとも、ゲームがきっかけで知り合った。
自社でつくった『ボーダーブレイク mobile -疾風のガンフロント-』というゲームで、20対20でギルドをつくってリアルタイムで30分戦うんですけど、3ヶ月に1度、頂上決戦をやるんですよ、もうほんと全体の中での1位を決めるみたいな。そのときに近くの居酒屋に集まってワーッてやって。
その雰囲気が修学旅行の夜みたいだなって思って。大人になるとそんなふうにワイワイとひとつのものを囲んでバカみたいに騒げる場ってそうそうないじゃないですか。
行きつけの神田の居酒屋の一角がバーコーナーになってて、そこのバーテンさんがすっごいゲーマーなんですよね。で、そこに一人で飲みにくるお客さんたちにうちのゲームをオススメしてくれていたら、そのリアルなバーカウンターそのものがいつの間にかギルドになっていた。
それで金曜の夜に集まってやったりして、その場でみんなガチャ引いてくれて、で、出ないと「出ないじゃないですか」って僕が詰め寄られたりして(笑)そういうのはコミュニケーションとして純粋に楽しいって思う。大人になってからのゲームって普段なかなか出会えないような人達とも出会えたり、初対面で簡単に壁を越えてうち解けられたりっていうメリットもある。やはりゲームっていうのはコミュニケーションツールとして優れているんだと思うんですよね。
それに、新しいテクノロジーやサービスが大きく普及するときって、そのきっかけとしては実用性よりもゲームという用途が実は大きいんじゃないかと僕は思ってます。SNSの普及自体がそうでしたよね。ハイエンドである必要はなくて人と人が繋がれるなら、コミュニケーションが取れるなら、日々遊んでもらえるのかなと思っています。

7)ワークライフバランスを、24時間ではなく一生で俯瞰する

この10年で、「ワークライフバランス」「働き方改革」という言葉が浸透してきましたね。

松野:
僕個人は、仕事とプライベートのバランスっていうのは個々人が決めればいいことだと思っているんです。ただ、何かしらのチャレンジ、「自分一人だと達成困難だけれども、この環境と仲間だったら目指せるかもしれない」っていう絶妙なゴール設定をすることこそが、会社としてのミッションだと思うんですよ。
そしてそのゴールに向かって長い時間を投入したいという人もいれば、キュッと短い時間でやりたいっていう人もいるだろうし。そのやり方は個々人に任せればいいと思う。それを会社が「ハイ、全員7時に帰る!消灯!」って決めるのは違うと思っていて、それこそ社員の自律性を奪っていることになるんじゃないか。だから、自分で決めてハンドリングできるのが理想ですよね。
そして、現状をよしとせず、困難は伴うけど前に進む、そう考えている人が集まって仕事できる環境、それこそが僕らの考える幸せなんじゃないかなと思います。
会社というのは全体でひとつの家族みたいなものだと僕らは思っています。家族っていうと「あたたかさ」や「関係性」もあるけど、それだけじゃないはず。協力しあって一歩前に進むことで見える新しい景色というのもある。それを分かち合えるというのも、家族の醍醐味なんじゃないかな。
田口:
ワークライフバランスっていっても、1日24時間、その中だけでのバランスじゃないと思うんですよ。ライフなんだから、人生を通して長い目で見たワークライフバランスも考えたほうがいいんじゃないですか。
一生涯働いていくんだ、人生100年続くかもしれないといわれる時代において、その人が40歳、50歳になったときにも、なんなら60歳、70歳になったときにも幸せに生きているためには、20代、30代のうちにどんな働き方をしたらよいのか。
僕らは社員に幸せでいてほしいって思ってるけど、それは別に今だけの幸せじゃないんですよ。社員が死ぬときまでの一生の幸せを考えてあげないといけないと僕は思ってます。そんな話をするとメンバーには「余計なお世話ですよ」っていわれるんだけども(笑)。
金:
うん、言われるよね(笑)
田口:
でもほんと、僕たちにはそこを考える責任がある。今だけ楽しく過ごしていて、40歳、50歳、60歳になったときに、幸せな道に行けるのか?行ける人になっていてほしいんですよ、うちで働いてくれている人たちには。
そりゃ、労働時間の法規制はあるしそれは遵守するんだけど、生涯ずっと幸せに働いていく力を身につけるためには、若いうちに集中してスキルや能力や時間を貯金しておくことって重要なはずで、働き方改革っていってもただただゆるくすればいいとは思えない。
金:
そうだね。それに人生ずっとマックスの力で働き続けられる人なんていないじゃないですか。仕事に没頭できる時期もあれば、そうしたくてもできない時期もある。家族がいたら一緒に過ごす時間も大切だし、老いや年齢といった活力とも向き合わなければいけない。だからこそ、やれるときは本当にやりたいことを目指してほしいし、40歳、50歳、60歳になっても、やりたいことをやっててほしいよね。
松野:
そうだよね。僕、最近周りの人に聞いていることが、これまで親に反対されてでもやったことって何?っていうものなんだけど。それを聞くとその人が一番やりたいことが何なのか、大事にしていることが何なのかが見えてくる気がして。僕は前の会社(NRI)を辞めるとき、反対されてたんだ。あんないい会社入ったのに、なんで辞めるんだって。もったいないだろって。
金:
ああそうなの?僕も親に「正気か?」っていわれた。
田口:
僕は反対されなかったよ。でも生まれて初めて親に「がんばれよ」っていわれたな。後にも先にもあのときだけ。あ、奥さんには反対されてたな(笑)どうやって暮らしていくのって。
金:
反対されてもやりたくて起業して、f4samuraiは10年続いて、これからも一緒にやっていくと。
松野:
あ、これ、もしかしてなんかいい話っぽく終わった?(笑)
田口・金:
はははは(笑)

2019年12月3日 f4samuraiオフィスにおいて
(インタビュー・編集:松田ひろみ)